魂の山行隊 尾瀬をゆく


尾瀬沼
ミノブチ岳からの眺望


7月7日
 この日、突然隊長からの召集がかかった。最近山に目覚めてしまった隊長は、登山に重きを置いたツーリングを計画したいらしい。この号令に真っ先に賛同の声を上げたのはエビだ。みきおは来られず。「ニュージーランドに走りに行くから」と云うのだからハデな欠席理由だ。さるは行けるかどうかなかなかはっきりせず、直前になってやっと行けることになった。したがって場所、スケジュールなどは隊長とエビの間で決められた。時は8月7〜8日の一泊二日、場所は尾瀬と決定された。

8月7日
 集合は朝8時宇都宮インター、当然全員時間通り。天気もなかなかのツーリング&登山日和だ。日光宇都宮道路・国道120・401号を走り、バイクの終着点である大清水に11時到着。昼飯は途中でコンビニ弁当である。この日の行程は大清水から尾瀬沼まで、尾瀬沼ヒュッテで一泊とする予定だ。
 11時20分いよいよ登山開始。わしらには山に登るときの合言葉がある。それは「山を甘く見てはいけません!」だ。エビは山靴でなくて普通の靴だが、けして山をなめているわけではない。エビは過去3度尾瀬・燧ヶ岳を登頂したベテランだ。だからこれでいいのだ。さるは半ズボンだが、当然山をなめていない。こないだ山中で蜂に追いかけられたさるは、抗生剤とステロイドの軟膏、その他救急用具を用意して万一に備えている。だからこれでいいのだ。そして隊長はどこから見ても非の打ち所ない山行スタイルだ。当然これでいいのだ。いざ尾瀬沼へ!
 出だしは高配ゆるく道幅も広い砂利道で、気持ちよく登っていけた。だがどうだろう、登り始めて30分もしないうちに天からポツリポツリときたではないか。 やれやれ 雨が降る予報などなかった筈だ!これがチャレンジャーズの宿命なのか?運命に抗うように隊長とさるはしばらくカッパを着ず頑張ったが、だんだんと強くなってくる雨に仕方なくカッパを着込む。それでもしばらくは余裕があった。3人のカッパの色が青・赤・黄だったので横に並んで信号機だなどとバカなことを云っていた。だが、雷も鳴り出し、さらに強く降ってくる雨の前に疲労の色が濃くなり、口数も減る。
歩き始めて約1時間後、 一の瀬休憩所に到着。すでに大勢の登山客が雨宿りしていた。わしらもそこで休憩しつつ、雨が小降りになることを祈るが、雷は雷鳴を轟かせ、ますます激しくなる一方だ。
 と、そこに上から一組のカップルが降りてきた。雨具を持っていないらしくびしょ濡れ。しかも、とても山に来ているとは思えないちゃらちゃらした場違いの格好をしている。おまえら山を甘く見すぎだ。「あいつら別れるな」隊長が確信を持った声でつぶやいた。
信号機のマネ  やっと少々小降りになってきたところで休憩所を出発。もはや景色を見る余裕もなく、もくもくと歩みを続ける。13時50分ごろに三平峠到着。ここらから尾瀬沼まで下り道になる。およそ20分後尾瀬沼のほとり着。尾瀬沼ヒュッテに着いたのは14時30分になっていた。だが、すでに外が薄暗いのにヒュッテの中はさらに真っ暗だ。予約はしていたはずたが、まさか臨時で休みじゃあるまい?一瞬ドキドキしたが、落雷による停電ということだった。わしらが入ってまもなく停電も終わった。風呂に入り乾杯し、なぜかおさるの新築祝いの包丁授与式が行われたりした後、夕食を食ってとっとと眠りにつく3人であった。
贈呈式

8月8日
 4時起床。軽くエネルギー補給。今日は燧ヶ岳登頂だ。4時30分、まだ薄暗い朝もやの中ヒュッテを出発する。登りは長英新道からいくことにした。尾瀬沼を離れてからはずっと樹林帯で見通しはよくない。しばらく平坦な道が続くが、そのかわり昨日の雨でだいぶぬかるんでる。普段靴のえびにとってはつらいところだ。進むにつれてぬかるみはなくなる代わりに坂が急になってきた。相変わらず見通しはきかないが、時折尾瀬沼が見えるポイントがあった。そのうち岩場の急坂になりみんなの息も上がる。やっと山に登ってるって感じだ。ここらで隊長が「勇気ある撤退」を提案したが、反対多数で否決された。
ミノブチ  と、突然視界が開けた。6時50分、ミノブチ岳到着だ。昨日の雨とはうって変わった気持ちのいい抜けるような天気と、360度ぐるっと見渡せるすばらしい景色。目の前に俎ーと柴安ーの雄大な二つのこぶがそびえ、反対を向くと尾瀬沼が見渡せる。やっぱり山はこうでなくっちゃ。絶景を愉しみながら、しばらくここで休憩をとった。
 さて、次は俎ー山頂だ。今までの樹林帯とは違い、目標が見えているのがいい。笹林を抜け岩場をよじ登り、7時40分俎ー登頂!燧ヶ岳制覇だ!ほんとは隣に見えている柴安ーの方が10mほど高いらしいが、細かいことはまあいい。 山頂 あっちはさらに時間がかかるからな。ここでヒュッテで用意してくれた握り飯をほおばる。こんなところで食うおにぎりってべらぼうにうまいね。
 下りは沼尻平に降りるルートを使った。しかしこの道は登りの道より数倍きつかった。ずっと岩場の急坂が続き足がガクガクする。だがエビはそんな2人をおいてスタスタ先にいってしまった。さすが燧ヶ岳登山4回目はダテじゃない。やっと麓まで降り、岩場を抜けると木道になった。湿地帯の中に延びる木道は歩いていて気持ちがいい。遠くに沼尻平の休憩小屋が見える。エビはとっくに着いて休憩していた。
木道  沼尻

 そして下山の時がやってきた。沼尻平から尾瀬沼を反時計回りに進み、前日来た道を引き返す。帰りにも「場違いカップル」とまた一組すれ違った。「あいつらも別れるな」今度も隊長がつぶやく。
 全員無事、大清水到着。飯を食い土産を物色し、バイクに跨る。いよいよ尾瀬ともお別れだ。帰りも相変わらず隊長はガンガン車を追い越すので、一時三台ばらばらになったが、有料道路の入り口でまた一緒になった。そして宇都宮ジャンクション。隊長は東北道を南下、エビは北上、おさるはそこから下道にとそれぞれの道に進む。めざすはそれぞれの家庭へ。次のツーリングに向け、妻や子のご機嫌とりにいそしむために・・・。

TXT OSARU ・ PHOTO TACHY&OSARU
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